一枚の布ができるまで
天然の素材texture
天然の素材は、命の宿る動物や植物からいただくもの。
その場所の自然や天気、また品種により様々な個性を持っています。
その個性をいただいてどんなものを作ろう?と考える瞬間が、とても楽しいのです。
まだ青い綿の実。秋になるとはじけてふわふわのコットンが出てきます。化学肥料や農薬を使わないオーガニックコットンは高価だけれど、農園で働く人達の健康を守る事につながっています。
羊から刈った毛は「ジャコブ」と呼ばれるイギリスの羊、通称おじさん。日本では珍しい白黒茶の斑模様で、聖書にでてくるほど古くからいる原種に近い羊とされています。年に一度手に入るかどうかの稀少な素材。
まるで動物園のような匂いと、染みついた汚れを洗い落として、フワフワの羊毛に生まれ変わったジャコブ。ここから糸を紡ぎ、一枚の布を織っていく。ワクワクする瞬間です。
糸を紡ぐspin a yarn
1枚の布を作る過程で、最も時間がかかる糸紡ぎ。
単純なのに、奥が深いこの手作業に没頭する人は少なくありません。
私個人的にも一番楽しい時間でもあります。
紡ぐ前に、ハンドカーダーとよばれるコームのような道具で何度も毛を梳くと、白・黒・茶が混じり合った落ち着いた色に落ち着きます。
糸紡ぎは、童話などにもよく出てくる「紡ぎ車」や「紡ぎ独楽」などの道具を使い、手で紡ぎます。原毛を一定の強さで張りながら、指先でわずかに撚(よ)りをかけながら糸車を回す。ほんの少し、指先に力が加わるだけで撚りの強さが変わり、糸の太さや強度にムラがでてしまうとても繊細な作業。気づけば夢中になってしまう人も多い、単純でありながら糸の表情を決める奥の深い大切な工程なのです。
今回はわざと凹凸をつけ機械で紡がれた紡績糸とは真逆のふんわりと自然なムラのある柔らかい糸に仕上げました。まっすぐ均一に紡ぐことが必ずしもそれが良いとは限りません。
機で織るweave a loom
今回ジャコブを織るのは、4枚綜絖(そうこう)の高機。
紡ぎ上がった糸を蒸すことで撚りを止めた後、約800本の糸を3日かけて機にかけます。
ようやくここから織りが始まります。
今回は、表と裏で違う糸を使う技法「昼夜織り」で仕上げていきます。
表はジャコブ、裏は国産の茶の羊、端にはシェットランドの白い羊毛を贅沢に使い、1枚のブランケットに仕立てます。
それぞれの異なる特徴を持つ素材を組み合わせて、新しい表情を想像するのも織り物の楽しい所。それもまた経験と共に新しい引き出しを蓄えていくのです。
色を染めるdye colors
草木染めの楽しさは多種多様。藍や茜はもちろん、桜や野草など身近な草木でも染めることができます。一方、化学染料を使った染めにも鮮やかさや色持ちの点で良さがあり、素材の性質や用途によって、染料を適材適所で使いこなすことがとても大切です。
秋に鮮やかな赤い葉が目をひく櫨(はぜのき)。櫨で染めた布は黄櫨染と呼ばれ、独特の黄色の布となる。
稀少な直径50cmの櫨の心材。中心部分をナタで砕き、煮出して濾す。
そこへ糸を浸して染色し、媒染する。これを何度も繰り返して色を入れていくと、糸が次第に明るく落ち着いた黄色に染まっていく。