工房の日々
思い出の形
薄紫の百日紅、織り終わりました。
毎年、8月の終わりに心に蘇る百日紅の思い出が形になりました。
はるか昔のこと、高校生の夏休みに友人と旅行をしました。
友人の親戚が住む熊本県を拠点にあちこちと。
もう今は、どこに行ったのか詳細な記憶は消えてしまいましたけど。
ひとつだけはっきりと映像として残る記憶があります。
人吉という城下町を散策していた時。
かつての武家屋敷の長く続く白壁の塀からピンクの花が飛び出してゆらゆらしている場面です。
夏空の澄み切った青と漆喰の白と瓦の黒、きりっとした夏の色合いのなかの赤い花は印象的で塀の向こうに誘われているような錯覚を覚えました。
百日紅という名前はず~っと先になってから知りましたが、その頃はどの家にでもある木ではなかったような、、
百日紅は盛夏よりの少し晩夏寄りに花の盛りを迎えます。
草花が無くなったころですから鮮やか色は目立ちますね。
でも近くで花の一つ一つを見ると縮緬状の花びらは可憐です。
毎年、夏バテで干からびた体や気持ちを優しく包んでくれるような百日紅。
近年は花の色も清そな白からフラメンコダンサーの衣装のような緋色まで幅広く、外で百日紅を見つけると嬉しくなります。
今回は薄紫の百日紅をコチニールで染めた紫を白い原毛に混ぜて濃淡を出してみました。
夏の記憶を冬に使う巻物で表現するのは?微妙~ですが、
強撚糸のシャリ感は秋から春まで幅広く使えますね。
夏の思い出を形にしたと言わなければ優しい薄紫の上品な一枚です。
極細に紡ぐのは時間がかかりましたが。
紡ぐ手元を見ながらも心ははるか昔にタイムスリップしてとても楽しい時間でした。
織っているときは白壁が続く道を歩いて百日紅を探しているようでした。
これ以上織れないというところで機から下ろし、後は房作り。
S撚りとZ撚りを交互に整経しているので房をどのように仕上げるか思案中です。
そして縮絨で極細の強撚糸が百日紅のちりめん状の花びらのようになってくれるかが心配。
体験された方にはわかりますよね。
出来れはあと2日で終わる8月中に仕上げたい。
